旭川駅からJR函館本線を札幌に向かうと、旭川市街を抜けて「神居トンネル」という長いトンネルに入ります。この神居トンネルルートが開通した昭和44年まで、函館本線はこの神居古潭駅を通るルートでした。いまでは当時のプラットホームが駅名板とともに残り、駅舎は復元されたうえで「旭川サイクリングロード」の休憩地点として活用されています。
『泥流地帯』では拓一・耕作兄弟が函館にいる母の佐枝に会いに行くため、旭川から函館行きの列車に乗りますが、雪崩のためにこの神居古潭駅から先へすすむことができず、失意のうちに上富良野に戻るというシーンがあります。二人が母と出会えたのは、十勝岳が噴火し、身の回りが一変してしまったあとのことでした。
写真と文の提供・神楽岡マイさん
神居古潭は、一方は山、一方は石狩川の激流が岩を嚙む場所だ。神居古潭駅の前に、吊橋が一本あるだけで、その上流下流には、何里も橋がない。汽車は、この切り立つ崖の下を、川に沿って曲がりくねりながら、のろのろと走るのだ。そんな、汽車のずり落ちそうな神居古潭に、拓一たちの汽車は一晩夜を明かした。襲いかかるような恐ろしい山鳴りを一晩中聞きながら、吹雪の一夜が明けた。幸い、吹雪はおさまったが、トンネルの向うは大雪で、今日は函館線が不通だという。
『泥流地帯』[氷柱](八)より
